無足場工法で耐震補強や改修はできる?無足場工法の基本と施工方法を紹介
都市部の狭い敷地や隣家との距離が近い場合、足場を組むのが物理的に難しいこともあります。そんな時、役に立つのが無足場工法です。
この記事では、無足場工法の基本から施工方法までを詳しく紹介します。
無足場工法とは
無足場工法は、足場を組まずに作業を行う工法です。
以前はビルの窓掃除に採用されていましたが、現在ではマンションやビルの塗装・補修・調査などでも採用されています。
ここでは、無足場工法の特徴、種類、可能な条件について詳しく解説します。
無足場工法の特徴
無足場工法は、近年の建築業界で注目される技術として急速に普及しています。
最大の魅力は、足場を設置することなく施工が可能であるため、コストと工期の大幅な削減が期待できる点です。
足場の材料費や設置・解体にかかる労務費、足場設置に伴う周辺の交通規制や騒音、埃などの環境への影響を最小限に抑えることができます。
しかし、無足場工法にはいくつかの制約もあります。
特定の形状や構造の建物、例えば複雑な曲線を持つ建物や非常に高い建物など、無足場工法の機材がアクセスしにくい場所には適用が難しい場合があります。
また、施工中の安全確保は至上命題です。
高所作業が主となるため、作業員の安全対策や落下防止策が不可欠です。さらに、施工後の確認作業が難しくなるため、高い技術と経験が求められる場面もあります。
無足場工法の種類
無足場工法は、その名の通り建物の外壁塗装や修繕を行う際に、足場を組むことなく作業を行う技術です。いくつかの種類があり、それぞれの特性や用途に応じて選択されます。
・ゴンドラ
・高所作業車
・ロープアクセス
ゴンドラ式の無足場工法は、建物の屋上から吊り下げる形で設置される可動式のゴンドラを使用します。複数人が乗車して同時に作業を行うことができる点がメリットです。
しかし、機動力に関しては他の工法に比べてやや劣るため、大規模な建物や複雑な形状の建物には向いていない場合があります。
高所作業車を使用した無足場工法は、特に低層ビルや一般住宅などの施工に適しています。車両に取り付けられた昇降機を使用して、作業員が高所にアクセスします。迅速に作業地点を移動できることや、広範囲の作業が可能であることがメリットです。
ロープアクセスは、作業員が特殊なロープを使用して建物の外壁に吊り下がりながら施工を行う方法です。この工法の最大の特徴は、高い安全性と高い機動性を持つことです。
特に狭い場所や複雑な形状の建物にも対応可能で、近年の技術進化により、多くの現場で採用されるようになっています。
無足場工法が可能な条件
無足場工法は、従来の足場を使用する工法とは異なり、特定の条件や環境下でのみ効果を最大限に発揮します。
無足場工法が注目される背景には、都市部の狭小地や隣接する建物との距離が近い場所での施工ニーズが増えてきたことが挙げられます。
都市部の狭小地や隣接する建物との距離が非常に近い場所では、従来の足場を組むスペースが確保できないことが多いです。このような場合、無足場工法が最適な選択となります。
また、部分的な補修や改修が必要な場合も、大掛かりな足場の設置は非効率的です。無足場工法はピンポイントでの施工に適しており、迅速かつ効率的に作業を進めることができます。
一方で、高層ビルや複雑な形状を持つ建物やオーバーハング(建物の一部が突き出している部分)がある建物など、特定の現場では無足場工法の適用が難しい場合もあります。
無足場工法のメリットとデメリット
無足場工法は、コスト削減や工期の短縮などのメリットがある一方、一部の建物形状には適用できないというデメリットも存在します。
ここでは、無足場工法のメリットとデメリットを詳しく解説します。
メリット
無足場工法のメリットは、足場の組立・解体にかかるコストが不要であることです。
全体の施工費用が大幅に削減されるため、予算内での施工を可能にする期待が高くなり、労務費も抑えられるため経済面でも有効となります。
狭い場所や特定の部分だけの修繕など、ピンポイントでの施工が求められる場合にも、無足場工法は高い柔軟性を発揮します。
また、予算に合わせて分割して施工することも可能であるため、計画的な修繕が行えます。
足場が設置されていると、不審者が侵入するリスクが高まりますが、無足場工法ではそのようなリスクが低減され、住民の安心感が増します。
足場の設置に伴う騒音や圧迫感がなく、周囲の環境への影響が少ないのも大きなメリットです。また、台風などの災害時に足場が飛ばされるリスクも低減されます。
デメリット
無足場工法は非常に便利ですが、建物の形状や構造によっては施工が難しい場合があります。特に、複雑な形状の建物や高い建物では、適用が制限されることがあります。
また、施工後の確認作業が難しく、作業員以外の人が現場を確認することができないのもデメリットの一つです。施工の品質を確認する際は、専門的な知識が必要となります。
さらに、無足場工法を専門とする業者はまだ少なく、適切な業者を見つけるのが難しい場合があります。そのため、業者選びには十分な注意が必要です。
無足場工法は高所作業が主となるため、落下防止などの安全対策が必須です。作業員の安全を確保するための設備や教育が不可欠となります。
足場が組めない状況とは
一般的に、外壁塗装やタイル補修などの作業では仮説足場を設置するのが一般的です。しかし、無足場工法が必要になるような足場が組めない状況になるケースもあります。
ここでは、足場が組めない状況として2パターンを紹介します。
隣家との距離が短い
隣家との距離が短いと足場を設置できません。
住宅街などの建物が密集している場所においては、隣家との距離が数十cmしかない場合も多くあります。
人が1人通れるかどうかの間隔の作業場になると、足場の設置ができないと判断されるでしょう。
特に都市部では作業トラックや材料を置くスペースが確保できないケースも多くあり、ビル内に店舗がある場合も、足場を設置することで営業妨害になる可能性があります。
このように隣家との距離が短いと足場を組めないため、無足場工法で施工を行うのが一般的です。
隣家の敷地が借りられない
隣家の敷地が借りられないと足場の設置ができません。
本来、足場の設置に際しては50cm以上の広さを確保できない場合に隣家の敷地を借りて足場が組めるようになっています。
民法第二百九条においては、「地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造 し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。 ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。」としています。
ここでポイントになるのは、後半にある「隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。」という文言です。
隣家の敷地を借りて足場を組むことが法的に認められていても、隣人の承諾がないと足場を組むことはできません。
隣人と接点がなかったり、関係が良好でなければ敷地を借りられないこともあるでしょう。このような場合は無足場工法のように足場に頼らない工法が必要です。
無足場工法は全部で3種類
無足場工法は全部で3種類あります。ここでは、それぞれの工法を解説します。
ゴンドラ
ゴンドラの無足場工法は、作業員が乗ったゴンドラを屋上から吊り下げて作業する方法です。
ほかの方法に比べると機動力で劣りますが、1つのゴンドラに複数人が入って作業できるため、効率性に優れているメリットがあります。
また、リモコンを使ってゴンドラを上下左右に動かしながら作業できるため、マンションやオフィスビルなど種別を問わず、多くの外壁改修工事に使用されていることも特徴です。
一方で、ゴンドラやロープの設置が可能なマンションでなければ使用することができず、屋上から吊り下げるため、高い建造物になると運搬に手間がかかるデメリットもあります。
高所作業車
高所作業車の無足場工法は、作業床が2m以上の高さに上昇できる能力があり、昇降装置・走行装置によって構成されて自走できる機械のことです。
ゴンドラと違って屋上にプラットフォームを設置する必要がないことや、操作を誤らなければ作業の安定性が高く、作業のリスクが低いメリットがあります。
一方で、道路使用許可申請が必要であることや、オペレーター・警備員などたくさんの人員も必要となるため、コストや準備に手間がかかりやすいことがデメリットです。
また、作業床を持ち上げる高さが限られているため、高いマンションやビルでの作業はできません。
ロープアクセス
ロープアクセスは、厳格な規格を通過した装備や統一化された作業施術に基づき、ロープを伝って作業を行う無足場工法です。
もともと、ロープアクセスは欧州でクライミングや洞窟探検で古くから用いられた技術を産業用に応用したもので、2本のロープと2つのアンカーポイントを使用して上下・左右に移動できるシステムが整えられています。
ここ10年ほどで日本でも急速に広まっている工法で、ブランコ作業からロープアクセスに切り替える会社も多くあります。
ビルやマンションをはじめ、風車や橋梁などのインフラのメンテナンスでも採用されていることから安全性の高さがうかがえるでしょう。
無足場工法はロープアクセスがおすすめ
小規模で予算を抑えたい工事において、無足場工法の中でも特にロープアクセスがおすすめです。
ロープアクセスは高所での作業を安全で効率的に実施し、特にスペースが限られている都市部や狭い敷地での工事に適しています。設備投資や人件費の削減にも最適な選択肢といえるでしょう。
規模の小さなプロジェクトにおける費用対効果や柔軟性を考慮しても、ロープアクセスは最適です。隣家との距離が短かったり、隣家に敷地を借りられずに足場が組めないときにもロープアクセスは向いています。
しかし、ロープアクセスには高い技術を要することから、実績があって信頼できる業者を選ぶことも重要です。
また、規模によってはほかの無足場工法が向いているケースもあるため、施工内容によって適した工法を選ぶ必要もあります。
無足場工法ができる業者を選ぶ際の注意点
無足場工法を採用することで工事期間の短縮やコスト削減などのメリットがありますが、適切な業者を選ばなければ、メリットを十分に享受できません。
ここでは、無足場工法ができる業者を選ぶ際の注意点を解説します。
改修の実績がある業者を選ぶ
無足場工法や耐震補強、改修工事は、専門的な技術と経験が求められる分野です。業者選びにおいては、その実績が非常に重要となります。
実績がある業者は、過去の成功事例や失敗からの学びをもとに、確かな技術力を持っています。
地域社会での評価や口コミ、施工事例の公開など、透明性の高い情報提供を行っている業者は、信頼性が高いといえるでしょう。
無足場工法や耐震補強の施工実績が豊富な業者を選ぶことで、安心して工事を依頼できます。
技術力が安定している業者を選ぶ
技術の進化や新しい材料の登場により、建築業界は日々変化しています。そのため、無足場工法をはじめとする工事を行う際には、最新の技術や知識を持つ業者を選ぶことが重要です。
技術力が安定している業者は、一貫した品質の工事を提供することができ、予期せぬトラブルや追加費用のリスクを軽減できます。
業者の技術研修の取り組みや、新しい技術の導入状況などを確認することで、技術力を判断できるでしょう。
適正価格での施工や保険加入を徹底している業者を選ぶ
工事の品質とコストは、密接な関係があります。適正価格での施工を行っている業者は、コストパフォーマンスの良い工事を提供できます。
しかし、安価な工事を提供する業者の中には、品質を犠牲にする場合があるため注意が必要です。
また、工事中の事故やトラブルを防ぐために、保険に加入している業者を選ぶことも大切です。見積もりの内容をしっかりと確認し、保険の加入状況や補償内容をチェックすることで、安心して工事を依頼できます。
まとめ
無足場工法を用いた方法について、詳しく紹介してきました。
一般財団法人日本耐震診断協会は、無足場工法による外壁調査やあらゆる構造の建物の耐震診断及び補強設計を実施する専門機関として、安全な住まいやオフィス環境の実現をサポートしています。
万が一の地震に備え、安心して生活やビジネスを続けるために、専門家のアドバイスやサポートを受けることをおすすめします。