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タイル剥落の原因とは?落下事故の内容や予防対策も解説

タイル剥落の原因とは?落下事故の内容や予防対策も解説

見た目の良さから外壁などに使用されるタイルですが、経年劣化によってひびが入り、剥落すれば事故につながります。
どうしてタイルが剥落するのか原因を把握していれば、未然に事故を防げるはずです。

本記事では原因とともにタイル剥落により実際に起こった事故の内容と再発防止策、剥落に関する法律や指針、防止対策も解説します。



建物の外壁にタイルが使用される理由

建物の外壁にタイルが使用される理由


タイル・塗り壁材・サイディングなどのさまざまな素材で、建物の外壁は美しく仕上げられています。
タイルは割高なため敬遠されがちですが、紫外線や雨風に強く、建物を外部環境から守るのに適している素材です。

サイディング塗装は表面に防水加工を施しているものの、劣化すると雨が浸入し建物を傷めてしまいます。
そのため7〜10年のサイクルでメンテナンスをおこなわなければいけませんが、タイルは耐久性があり、素材そのものはメンテナンスの必要なく利用できます。

タイルの貼り分けによって建物の劣化を防げるなど、長期的な利用を考えるとメリットが大きい素材です。
意匠性も高く、コストや耐久性と快適性のバランスを考えても、建物の外壁に優れていることがわかります。



タイル剥落の原因

タイル剥落の原因


タイルは耐久性に優れていることから、外壁のメンテナンスは不要と考えている施工主が多いようです。
しかしながら、タイル落下による事故件数は年々増え続けており、何らかの原因によって引き起こされていると考えられます。

ここでは、おもに挙げられる3つの原因を解説します。

温度や湿度の変化

外気環境の変化は、浮きが起きやすくなる大きな原因です。
外壁のタイルはコンクリートの上にモルタルを塗って貼り付けられており、急激な温度差によって、素材の膨張と収縮の繰り返しによりひずみが発生します。

コンクリート・モルタル・タイルの3層の素材によって膨張係数が異なるため、ひずみは徐々に大きくなり、浮きが生じます。
浮きには大きく分けて2種類あり、下地のモルタルが建物から浮いている下地浮きと、モルタルとタイルが剥離する陶片浮きです。

早い段階で浮きに気が付いて修理をすれば問題はありませんが、気が付かないまま放置していると、完全に剥離し落下するため対策が必要です。


浮いた部分への雨水の浸入

紫外線を浴び雨風にさらされたタイルの塗装は、劣化によって雨水を吸収しやすくなっていきます。

タイルの目地に使用されているコーキングは紫外線に弱く、ひびが入ったり剥がれてしまったりするケースも少なくありません。
コーキングにひびが入ると、モルタル部分にも雨水が浸入し、劣化のスピードが上がります。

モルタルが雨水で浸食されていくと同時に始まるのが、酸性雨や空気中の二酸化炭素がコンクリートを中性化するために生じる酸化です。
コンクリート中の鉄筋に徐々に錆の腐食が進行し、膨らんでモルタルが押し上げられると、浮きが大きくなりタイル落下の原因になります。

浮いただけなら問題はないと修理せずに放置していると、コーキングが完全に剥がれて雨水がさらに浸入します。
DIYは一時的な応急処置にはなりますが、大きな事故が起きる前に専門家に依頼して修理しましょう。


タイルの圧着不足

タイル落下は、外壁のゆがみから起きてしまいます。
施工者の技術不足や、建築資材の変化によって結合が弱くなり剥離しやすくなるのが原因です。

タイルをコンクリートに結合するモルタルは、施工者が水を加え、練り上げて使います。
モルタルに対してどれくらいの水が必要なのか、基本の対比率は決まっていますが、気候や温度などによって微妙に量を加減しなければなりません。

熟練の職人であれば、経験や知識からバランスよく水の量を決めていましたが、高齢化によって施工者が若年層へと変化しています。
モルタルが十分な接着力を発揮できなかったり、圧着セメントの充填不足によって隙間ができてしまったりすると、タイル剥落の原因になります。



タイル剥落事故

タイル剥落事故


見た目に高級感があることから、高層マンションや住宅などにタイル塗装が使用されるようになりました。

目視で危険なタイル剥離を見かけると、大雨や台風が接近するたびに剥落事故が起こるのではないかと心配になるでしょう。
住人はもちろんですが、建物の下を歩く通行人や自転車、車にまで損害を与える事故になりかねません。

剥落事故は防げるものですし、見て見ぬふりをしていると大きな問題に発展することを覚えておきましょう。

実際に起きたタイル剥落事故

特定行政庁には、さまざまな建築物事故が報告されています。
「特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要」を見てみると、平成22年度には3件であった壁タイル事故件数は令和元年度には18件に増えています。

他の事故内容と比較すると、部材の落下事故がもっとも多く、そのなかでもタイル剥離件数がトップでした。
どうして、タイル剝離による事故が多いのでしょうか。

「特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要」を参考に、実際に起きた事故内容と再発防止策をピックアップして解説します。

参照:特定行政庁より報告を受けた建築物事故の概要【国土交通省資料】


走行中の車に落下

平成31年(2019年)4月、熊本県内のマンション11階から走行中の車に外壁タイルが剥落し、運転者と同乗者がケガをしました。

熊本では平成28年(2016年)4月に、最大震度7の熊本地震が発生しています。
28時間以内に、2度も震度7の揺れが観測されたのは観測史上初であり、豪雨と土砂災害で多くの方が被害にあいました。

当時の地震によって、タイルの浮きやひび割れ部分に雨水が浸水し、壁とタイルに生じた隙間に強風が吹き込んだために剥落したと考えられています。

今回は車に落ちたため、事故にあった方は軽傷で済みましたが、落ちたタイルの大きさは約40cm四方と危険度が高いものでした。
建築関係や不動産会社には適正管理について通知し、所有者にはホームページで周知するように指導がおこなわれています。


歩行者に接触

令和元年(2019年)7月、東京都内の共同住宅のタイルが落下し、通行人1名がケガをしました。

外壁タイルの一部が地上4mから道路に剥落しています。
モルタルなどの下地材が雨水にさらされ腐食したために、タイルが剥落したとされています。

落下したタイルと同じ方法で取り付けがおこなわれている部分は撤去され、サイディング塗装にて修理されました。

落下した距離が短かったため歩行者は軽傷でしたが、高層ビルから落ちていれば死亡事故になる可能性もあるでしょう。


階下の建築物を破損

令和元年(2019年)8月、愛知県の店舗で起こった剥落事故です。

ビルの5・6階から外壁タイルが剥落し道路に落下後、袖看板1基が一緒に落下しています。
残りの袖看板2基は落下をまぬがれましたが、損傷が激しい状態でした。

築年数が50年のため経年劣化で生じた浮きによるものと考えられましたが、定期的なメンテナンスがおこなわれていなかったことが原因と判明しています。

落下の危険性があるタイルは撤去され、金属サイディングによる改修工事が進められました。


タイル剥落事故の責任の所在

平成2年(1990年)には3階部分のタイルが一部剥離し、約9m下の道路に落下して、通行中の女性が負傷した事故があります。

同年には外壁(縦1.5m×横4m×厚さ5cm)が躯体コンクリート面から剥離して、16m下の駐車場に落下したために、オートバイ4台が破損する大事故も起こっていました。
駐車場に人がいなかったためバイクの損傷で済みましたが、もし人がいたら大惨事になりかねません。

このような事故が起こると、論議されるのが責任の所在です。
建築基準法では、建築物のオーナーや管理者に責任があり、定期的に建物診断を受けて異常があった場合は修理・補修をただちにおこなうと定めています。

国土交通省の「定期報告制度」改訂によって、外壁タイルの打診検査は義務化されました。
定期的な調査と報告を怠ると、罰則(100万円以下の罰金)の対象になります。

参照:国土交通省資料



タイル剥落に関する法律や指針

タイル剥落に関する法律や指針


国土交通省では、タイル剥落の多発による事故を未然にふせぐための法律や指針を定めています。

ここからは、改正マンション管理適正化法や建築基準法、公共建築工事標準仕様書について解説します。


タイル剥落に関する法律

建築基準法101条第1項第2号で義務付けられているのは、特定行政庁への定期的な建物調査結果の報告です。

地域の状況によって、市町村・特別区・都道府県のいずれか地方公共団体の長が、特定行政庁となります。
特定行政庁によっては、一定規模以上のマンションなどもその対象となるので、事前の確認が必要です。

タイルに関しては手の届く範囲の打診と目視での点検がおこなわれてきましたが、剥落事故の増加にともない、令和4年(2022年)4月1日にマンション管理適正化法の法改正が施行されました。
この改正により、タイルを使った建物は経年劣化による剥落の危険性があるため、定期的な調査に加え10年ごとに全面打診調査実施が必要になりました。

定期報告対象の外壁調査をおこなわなかった場合、罰則が適用される可能性もあります。
条件によっては罰則が適用されないケースもあるので、業者と相談してください。


国土交通省の指針

国土交通省が発行する「公共建築工事標準仕様書」は、建築工事の際の指針となっています。

平成17年(2005年)の改定では、タイル貼り付けの留意事項が詳細に記されています。

改定後に施工された建物に浮きや剥離があった場合、剥落の危険性があるかについての明確な基準値は国土交通省では発表されていません。

参照:国土交通省「公共建築工事標準仕様書」



タイル剥落の防止対策

タイル剥落の防止対策


紫外線や風雨にさらされると、丈夫な外壁であってもひびが入り劣化します。

タイルがモルタルから剥離してしまうと、落下する危険性が高くなるため、防止対策と外壁調査が法律で義務付けられています。


外壁調査の対象

外壁調査の対象となる仕上げ材は、タイルや石・モルタルです。

建築基準法第8条第1項と第12条第1項に定められているとおり、最初の外壁調査は、竣工から10年後におこないます。
外壁調査が必要な箇所は、外壁の落下により歩行者などに危害を加える可能性がある部分です。

基準としては、壁面の前面とその壁面の高さ2分の1の水平面内に、歩道・歩行者が多い通路・私道・広場を有するものと定められています。
壁面下に屋根などが設置されていたり、植木や植え込みがあったりして、安全性が高いと判断される部分は対象外です。

通行人が少ない通路などは、調査の対象外になるケースがあるので行政庁などへ確認しましょう。


外壁調査の方法

タイル浮きの調査方法として以下の2点があります。

打診調査法 赤外線調査法
メリット
  • ・点検調査の精度が高い
  • ・安全性が高い
  • ・工期が短い
  • ・費用対効果がよい
デメリット
  • ・コストがかかる
  • ・工期が長い
  • ・点検調査の精度が低い
  • ・建築物が密集したところでは使えない
費用 200~700(円/㎡) 120~350(円/㎡)
調査方法は建物の管理者が選べるので、料金や調査内容を比較して、建物に適した調査をおこないましょう。


打診調査法

打診調査は外壁の表面を打診棒で叩き、外壁材の浮きや剥離などを検出する方法です。

建物の大きさによっては、高所作業車などを利用して作業員がおこないます。
作業員が目視によって浮きや剥離を確認しながらおこなうため、点検の確実性が高い点はメリットです。

最近ではロープにて屋上から降下して調査を行うロープアクセス工法があり、ほとんどの建物で対応が可能となります。


赤外線調査法

赤外線サーモグラフィーを使用し、表面温度の差で浮きを確認する方法です。

打診調査と違い工期の短い点が特徴で、外壁面の撮影を打診するだけで作業が終わります。
(目視調査、手の届く範囲の打診調査も行います)

作業員が高所で作業する必要がないため危険性が低く安心で、工期が短くコスト面でも負担がありません。

最近ではドローンを使った赤外線調査もおこなわれるようになりました。
コスト面だけでなく、外壁補修の必要性を判断するために有効な方法なので、検討してみてはいかがでしょうか。



まとめ

まとめ

外壁タイルの剥落事故の増加にともない、定期的な調査と報告の必要性が検討され、法律や指針が整えられました。

タイル剥落による事故を未然に防ぐためには、定期的な修繕が必要であり、そのためには人的な負担のない赤外線調査がおすすめです。

建物の耐震補強の実施は、建物を守るだけでなく私たちの命を守ります。

一般財団法人日本耐震診断協会では、建物の耐震診断や補強を実施しています。
外壁に関する心配や相談がある方は、お気軽に相談してみてください。


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